Letters
┌──☆
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└──┘
[That Time...]
しょうへ。
おげん気ですか。私はげん気です。
まい日ごはんをたくさんたべて、たくさんうんどうをして、お父さんとお母さんの言うことをきちんと聞いていますか。
お父さんとお母さんはやさしくしてくれますか。お友だちはいっぱいできましたか。
たぶんないと思いますが、いじめられたり、なか間はずれにされたりしていませんか。もしこまったことがあったら、すぐにお姉ちゃんに教えてください。すぐにとんでいきます。
お姉ちゃんはいつでも、いつまでもしょうのみ方です。
みね子
12年前 作文「大切な人への手紙」天衣峰子
* * * * *
1
手紙は私にとって、小さな頃から触れていた、なじみの深いものだった。
実の父の思い出が何かあるかと聞かれれば、出張や残業をしているところ というより、その留守番の時間 を真っ先に思い出してしまうくらい、父は多忙な人だった。
既に母は亡く、ベビーシッターさんたちの世話になっていたこともあって、父もそれではいけないと思ったのだろう。
一緒に過ごす時間の代わりにと、幼い娘たちに置き手紙や書き付けを残しておくのが日課になっていた。
妹などまだひらがなも読めたはずはないのだが、出張先などからもまめにかわいらしいレターセットに切手を貼った封書が届けられた。
皮肉なもので、数年とせぬうちにそれがすべて形見になってしまった。
峰子、星、元気にしていますか。
峰子は星のめんどうをちゃんとみて、この手紙も読んできかせてくれているでしょうか。
星はお姉ちゃんをこまらせたりしていないでしょうか。もうこの前会った時よりも、だいぶ大きくなったでしょうね。
お父さんは今、ドイツという国にいます。写真を入れておきますね。
ソーセージがおいしいところなので、帰りに買っておみやげにしようと思います。
日本に帰る日がまちどおしいですね。帰ったらまたいっしょに、かんらん車に乗りましょう。
2
おねえちゃん、おにいちゃんたち、このあいだはおいしいクッキーをどうもありがとう。
こんどあそびにいったときも、またトランプおしえてね。
天衣峰子となって数年、盆と正月とゴールデンウィークに会うだけになってしまった“従妹”から、最初にはがきが届いたのはその前土産に持たせた菓子折りの礼状だったろうか。
多分姉と名乗れない私への、叔父夫婦の気遣いだったのだろう。そのはからいに感謝しつつ、父の手紙を納めた箱の上に安置した。
早速返事を書き送った。以前学校の授業で書いたような感傷ばかりのものにこそしなかったが、雑談が脱線に脱線を重ねてやたらとはちきれんばかりの封筒になってしまったのを覚えている。
もっとも妹も立派な本好き、話好きへと成長していたようで、その長文をおもしろおかしく読んでくれたようだった。
間もなく文通が始まった。
星ちゃん、こんにちは。いつもおてがみありがとう。
星ちゃんは本が好きなんだね、わたしもです。
学校ではこくごがとくいだったりするのかな?
わたしはさんすうとりかがとくいです。でもしゃかいはにがてなんだ。……
みねお姉ちゃんへ。さん数がとくいなんて、すごいですね。星は、かん字テストが、にが手です。でも、さく文は大すきです。
この間のこく語のじゅ業で、好きなお話を書いていいじゅ業があったので、星は、森のくまさんに会うお話を書きました。
とても楽しかったです。……
……
星ちゃんが主人公の話なのかな。どんなくまさんなんですか?
星ちゃんが書いたお話、わたしも読んでみたいです。……
……原こう用紙をコピーしたので、一しょに入れておきます。感そうをおしえて下さい。
ある日星が森を歩いていると、大きなくまさんに会いました。
星はびっくりしましたが、
「はっ、こういう時は、死んだふりをしなきゃ」と思い出して、木の根もとにたおれていました。
すると、くまさんは気づかなかったのか、わきを通りすぎて行ってしまったではありませんか。
「ほっ」と思った星がおき上がってあたりを見まわすと、大きな白いハンカチが落ちています。
「誰のだろう? もしかして……」星はハンカチをひろい上げました。
思ったとおり、ハンカチにはくまさんの顔が刺しゅうしてありました。
「これは、くまさんのだ。おーい、くまさん、落としものですよ」
あわててくまさんを追いかけると、くまさんはなみだでいっぱいの目でふりむいたのです。
「ああ、ありがとう。かおをふこうとしていて落としちゃったんだね」
と、くまさんはお礼を言いました。なかなか礼ぎ正しいくまさんのようです。
星は心配になってたずねます。
「くまさん、どうしてそんなに泣いているの?」
「実はね……」
3
ある日、しん兄が私の部屋のドアをノックした。
「峰ちゃん、峰ちゃん。かわいらしい便せんなんか持っていませんか?
できれば2〜3枚欲しいんですが……」
「あるよ、星との文通に使ってるやつが。便せんだけでいいの? 封筒は?」
「ああ、封筒もですね。お願いします」
私は机の引出しをちょっと引っかき回し、セットになった便せんや封筒を一そろい拾い上げるとしん兄に手渡した。
「これでいいかな。こっちは、封するときに使うシールね」
「ありがとうございます、ずいぶん、かわいらしいんですね」
私が渡したのは猫がシュー生地やデコレーションケーキに挟まって転がっているデザインのレターセットだった。それをしげしげと見つめて、しん兄はなにやら感心したようにしている。
「そりゃまあね、女の子の文通だし。
……それを使って、誰に手紙を出すの?」
しん兄は私のうろんげな視線に気づいたふうもなく、にこにこと答える。
「施設の子にですよ。ほら、毎週通ってるとこの……。これから、あまり顔を出せなくなるから、その代わりお手紙を書くと約束したんです」
へぇ、ほぉ、ふーんと一通り合いの手を入れた私は、最後に余計な釘を刺しておいた。
「犯罪に走らないようにね?」
「走りませんよっ」
……進路を決めた理由ですが(と言っても、希望しているだけで、まだ決まってはいませんけどね)、私のお父さんとお母さんは、人々のためになる仕事をしているのです。
だから、その跡を継ぐ……というわけでもないんですが、結果としては、一緒かもしれませんね。
雅ちゃんや他のみんなと遊んだり、勉強したり、たくさん話をしたりするうちに、私ももっとたくさんのみんなの役に立ちたいと思うようになりました。……
4
それは星が中学に上がってちょっとした頃だったように思う。
日曜の午後、干した布団を取り込もうと格闘していたら、電話がうるさく鳴り出した。
「 誰もいないの?」
しばらくその物言いたげな呼び出し音を、遠くのものとして聞いていたが、誰も出ないようなら仕方ないと廊下に布団をほっぽりだして取りに行った。
「はい、天衣です」
掛けてきたのは、探流の家の叔母だった。
「どうしたの、おばさん?」
電話の向こうの叔母さんは、明らかに声を震わせていた。焦って落ち着きもなく、泣き出しそうとまではいかないが、おろおろしている様子が顔を見なくとも伝わってくる。
「峰子ちゃん、ごめんね、ごめんなさい」
叔母は何度も重ねて謝った。
「まだ、知らせなくていいんじゃないか。義務教育も終わってないし」
つい、先刻。叔母は叔父と一緒にお茶の間でそんな話をしていたという。
知らせるとか知らせないとかいうのは、もちろん星が叔父夫婦の実の娘ではなく、私の妹だということだ。
「そうねえ、まだショックが大きいでしょうね。
できればずっと、私たちの本当の子として育てたいんだけど……」
「峰子のことがある。そうもいかないだろう」
実際に叔父さんがこう言ってくれたのを聞いたわけではないが、こういう思いやりには本当に頭が下がる。とはいえ、私自身も天衣家であたたかく迎え入れられてはいたし、それが星のためなら姉妹と名乗らなくてもいい、と思うようにはなっていた。
「不憫で……峰子ちゃんは別れて暮らすようになったとき、物心もついていて、星が実の妹だってことも憶えているのに」
「うちに2人分の面倒を見られるだけの余裕があったらよかったんだがな」
叔父さんはそう言って目を伏せ、手の中の湯飲みをながめる。叔母さんも目頭を押さえた。
「ええ……。
やっぱり何か通じるものがあるんでしょうね、星もよくなついて、峰お姉ちゃんが本当のお姉ちゃんだったらいいのになんて言ってるの。
峰子ちゃん、どんな気持ちで聞いてるんだろう……」
そのとき、廊下からがたんと物音がした。
扉のほうを見やった叔父は、その人影に初めて気づき、声を上げる。
「星?!」
「そして……そのあと、少し話をしたんだけど、あの子、ちょっとお散歩してくるなんて言って
こんなふうに知らせるつもりはなかったんだけど」
一部始終を教えてくれて、叔母はまた声を曇らせた。
「……はぁ」
私は気詰まりな空気につい、息を漏らす。
しかしそれは叔父や叔母の失敗を責めるわけではなく、
「いいえ、その……本当のことなんか、言わなくってもいいのに、ちゃんと知らせようとしてくれたり、時期とか考えてくれて……ありがとうございます」
私が言うのも何ではあるが、星を引きとって育ててくれたのが叔父さんと叔母さんで、よかったと思う。
でも、そっか。星は、知っちゃったのか。
「ごめんね、ほんとに、峰子ちゃん」
叔母さんはまだ何度も謝るようだ。それで私も何度もいいえと繰り返す。
しばらくの後、やっと叔母さんは一息ついて、言った。
「それで……もしかしたらあの子、そっちへ行ったかもしれないから……」
布団をやっつけて部屋の掃除なんかし、お茶にでもしようかと台所でがたがたやっていると、インターフォンが私を呼んだ。
「……お。
はぁーい」
玄関でうつむいていたのは案の定というかご明察というべきか、実物を見るのは3、4ヶ月ぶりの星の姿だった。
「あ、いらっしゃい。お茶にしようとしてたんだけど、一緒に飲んでって? さ、上がって上がって」
挨拶も口に出せないような星を、半ば強引に居間に落ち着かせる。
「さっき、……電話があってね。うん、心配してたみたいだったよ」
星ちゃんのお母さん、というべきか、私の……あるいは、遺伝学上のという意味も兼ねておばさんと言うべきか。
とっさには決め兼ねて主語は省いてしまった。
「そ、うですか……」
やっと口を開いた星はよけい沈んでしまったようである。しまった。
「あー、えーと、しん兄のパウンドケーキがあるよ? 食べるよね。紅茶とコーヒーと、どっちがいい? 煎茶もあるけど」
「 あ…… えっと じゃあ……、紅茶……」
「ん、わかった」
立ち上がった私に星は小さくすみません、と言う。
「お待たせー。で、えっと……」
私は居間のテーブルに2人分のケーキとお茶を並べ、そして、自室から持ってきておいた古い紙箱を星に見せた。
「──もしかしたら、読みたいかな、と思って。
死んだお父さんの、書いてくれたお手紙」
「…………!!」
小さく息を呑んだ星ににっこりして、私は紙箱の中から便せんを取り出した。白地に薄い水色で夏の星座が描かれている一枚だ。
ふらふらと私のいる家に来たはいいものの、こんなものが出てくるとは予想だにしていなかっただろう。
「これは、星ちゃんに書かれたもの。どうぞ、読んで」
私は 、幾度となく読み返し、寂しい夜の、あるいは自分を奮い立たせる時の助けとしてきたから、その箱の中身はすべて暗誦できるほどだ。
その紙には、親であるなら誰でも浮かべる願いと、果たせなかった約束が記されている。
星はひとつうなずくと、お茶にもケーキにも目をくれず手紙を読み出した。
やがてその古びた紙に、ひとつ、雫がしたたり落ちる。
星は最初それをぬぐって、それから、自分のほほを押さえたが、あとからあとからあふれてくる雫に、濡らすまいと手紙をテーブルの上に遠ざけ、やがて両手で顔をおおった。
私はそれをながめながら、光って流れ落ちるのは、夜空の星に限らないんだなとぼんやり思っていた。
星へ。
きょうは かえってくるときに、きれいな ながれぼしを みたよ。
星、きみの なまえは おかあさんが、きみが おなかに いるとき
きれいな あまのがわを みて、 あまりの うつくしさに
そんな ゆうだいで うつくしいこころのひとに なってほしいと
ねがって つけたんだよ。
いつか きみが おおきくなって、 いっしょに あまのがわを
みにいけるのを おとうさんは まっています。
5
「そういえば、峰ちゃん。星ちゃんの学校は確か、城煌でしたよね?」
またある日、しん兄は唐突にそんなことを聞く。
「うん、そうだよー。中学受験して。今2年生」
「ああ、やっぱり。じゃあ、お互い顔見知りかもしれませんね♪
私の知り合いの女の子が、やっぱり城煌の中2にいるんですよ」
「へぇ、しん兄の どんな知り合いよ」
なんだか似たような会話を、以前にもした気がするのだが。
「まさか援助交際とかじゃないよね? 昨今はやりの」
「違いますっ!
……峰ちゃん、私をいったいどういう目で見ているのですか…………」
顔を赤くして叫んだしん兄は、こちらをにらんで今にも泣きださんばかりだ。
それが捨てられた子犬みたいで、私はつい大笑いしてしまった。
「嘘、嘘。貧乏大学生にたかってもしょうがないし?
で、結局、いったいどういうお知り合い?」
「うーん…… なんだかそれはそれで傷つく一言のような……まぁ、いいですけど。
なんて言えばいいんだろう、友達 」
教え子、遊び相手、担当……などと、あんまり法則性のなさそうな単語をしん兄は挙げていく。
いぶかしさに私の首がちょっとずつひねられ、そろそろ直角に達しそうになったころ。
「 そうか。
文通相手ですよ、文通相手」
うん、今はそれが一番しっくり来る。
とつぶやいてしん兄はやわらかく笑った。
☆しん兄へ☆
やっぱり中学校でもマラソン大会はきついね。でも結構がんばって、上位20位に入ったんだよ♪ ほめてほめて♪ な〜んちゃってね。
さて、今度の三月末には、去年なかった寮の部屋割り替えがあるみたい。
こんどこそ同じクラスの子と一緒の部屋になれるといいなー……でも、中学で寮の子って少ないんだよね……。
前に言った3人のほかに、四月から親が海外に行っちゃうって子がいて、その子も寮に入るみたいなんだケド。
しん兄に言われた、好きなことを見つけろってやつは、目下捜索中です。
僕としては写真が面白そうなのだけど、ちゃんとしたカメラ買うとしても、使い捨てカメラ使うにしても、……どっちみち結構お金かかるし。
今のところは写生と称して、身の回りの人たちの面白いことを書きとめとくのがマイブームかな。
これが友達に見せたらなんか評判いいんだよ。今度しん兄にも送るかも?! 楽しみにしててネ☆
じゃあまたね、まだ寒いから体に気をつけてっ。
僕はこれから期末テストの追い込みでーす。
藤峰 雅より♪
* * * * *
[...And Now]
せーちゃん、ノートありがとね♪ 助かったよ☆
でも佐々木の授業 (>_<) やっぱ、眠くなるよね?
帰り、ひめ福に寄ってかない? ノートのお礼に、
あんみつでもおしるこでもおごるからさ♪
雅
2分前 教室を手から手へと流れていったノートの切れ端
END_φ(。。)