10-嘘みたいなI LOVE YOU
「僕はあの日教えて貰った言葉を、これからも追いかけていくんだろう。」
「暇、だなぁー……」
「暇、だわねえ」
ふと漏らした雅のひとことを、お隣のお姉さんは真似しつつもやはりお姉さんらしい口調で返す。
今年初めて霜柱が立った日のお昼過ぎ、二人はこたつにあたりながらまったりとみかんをむいていた。
朝は一番に起きて新聞を取りに行った星ちゃんが霜を見つけて大喜び。長男や次男はもちろん、いつも朝の遅い峰子まで起き出してきては足跡を付けてはしゃいでいた。
その彼らの姿は今は見えない。買い物に行ったのだ。霜柱ももうとっくに溶けきってしまったろうが、冬もすっかりやってきた中、表に出て何かする気には到底なれない。
「イヤイヤ、小生思いまするに平和なのはいいことですヨ」
いつもの場所でいつもの口調の客人がいつものようにお茶を飲んでいる。まあ確かに、いつもは
ひねもす
-
終日
-
文字通り、朝から晩まで
大騒ぎで、おこたでのんびりなんてしてなかったかもしれない。雅はたまにはこんなのもいいかと、むいたみかんを口に放った。
「それにしてもほんと、こちらのお宅にしては静かなのね」
「けん兄はいつものとーりにバイトだし、じゃむ兄もしん兄も、なっす〜もお姉ちゃんもみんな買い物行ってるからねー。今夜鍋にするから、買い出しだって」
「あら、と言うことはじゃむお兄さんと無空さんは荷物持ちかしら?」
「そうそう」
お姉さんもすっかり一家の事情に通じてしまったようだ。
「星ちゃんだけは部屋にいるんですけど。宿題かなんかやらなきゃいけないんだって」
「そう、学生さんって大変ね」
……ってことは、とりあえずお姉さんは学生ではないのか。
「……みかんだけじゃなく、お茶菓子、何か他にも持ってこようかな」
とりあえず台所をあさってみることにした。その背中に客人さんが声を投げる。
「おや、次女殿はみかんはもうよろしいので?」
「イヤ、飽きない? みかんばっか食べてて」
こたつの上には三人がやっつけたみかんの皮が既に小山になっている。
「入浴剤代わりになりそうなくらいあるわねぇ」
「あ、それはお姉ちゃんがやってくれます……多分。
ようかんが見つかったから、今切りますね」
「おお、いいですナ。お茶にはやっぱり和菓子で決まりですヨ」
見つけたのは栗ようかんだ。全員に当分に栗が行き渡るように切るにはちょっと頭を使う。
「はーい、お待たせ」
ことんことんとお皿を置いて、
「いただきます。……うん、おいしいわ」
「うむ、この栗きれいな飴色ですナ」
「でしょ? お向かいさんが持ってきてくれたの」
茶菓子には不自由しない一家である。雅はようかんの一切れをもぐもぐと噛んで、客人さんと一緒に茶をすする。
「この、口の中で、ようかんとお茶が混じり合うのがいいんだよね〜」
「次女殿もそう思いますかネ、気が合いますナ」
「あ、客人さんもわかるわかる?」
二人とも、嬉しそう。
頷きあっているところにお隣さんがふと疑問を投げかけた。
「そう言えば、雅ちゃんって、どうして次女っていうの?」
「え? 僕?」
「ええ、長女である峰子ちゃんの妹さんは星ちゃんなんでしょう? そうしたら、同い年なんだし、星ちゃんが次女で雅ちゃんが三女っていうのが普通だと思うの。
雅ちゃんのほうが誕生日が早いとか?」
「違いますよ、僕は早生まれ、星ちゃんは遅生まれだし。
えっと……次女っていうのは、二番目の女の子って意味じゃなくて……次男の妹だから、次女なんです」
「しんお兄さんの?」
「です。最初は娘って話だったんですけど、それはイヤだってしん兄泣くし」
「確かに、あの若さで次女殿のお歳にもなる娘御がいると言われたら泣きますナ」
「娘? それはどうしてなのかしら」
お姉さん目を輝かせてるな、と雅は思った。だけど好奇心旺盛なのはお互いさまかも。
「話せば長いんですけど……
去年、僕がしん兄と再会した時にね。……じゃない、その前から話したほうがいいのかな?
ずっと前のことなんだけどね」
興味津々の二人に語りはじめながら、お茶飲み終わるまでに話し終わるかなとか、雅はちらっと不安になった。
→
NEXT PAGE
Written by
Kazami SHIHO
.
©
"Jam" Family
2004 All rights reserved.