花よ、私と踊りましょう(仮題)


最終更新: 2008/10/08 22:16:15

   それじゃ、僕は学院の方に外出届けを出してきます」
 そう言ってリージャが立ち上がると、アレックが軽く片手を上げて続いた。
「なら、俺も一緒に行くか……現地について、多少は調べておきたいしな」
 デーモンがいるのであれば、現場へ向かうのは早いほうがいい。しかし同時に、下調べのできるのも、ここ王都だけだ。
「そうですね、あんまり期待はできないですけど、人が消える遺跡なんてあたりも当たってみてもいいかもしれません」

 月光華亭を出てしばらく歩くと、ハザード川を越えてオランの東西を結ぶ大通りへ出る。
 色彩豊かな西部諸国や手に入らぬものはないと言われるロマール、そして街全体がどこか若々しいファンなどとは立ちのぼる空気こそ違えど、大陸のそこかしこからものの集まるオランの活気はまた格別だ。
 呼び込みの華をかわしながら、露店と建物の向こうにそびえ立つ三連の塔を目指して二人は歩いていく。
「っと、どうした?」
 アレックは、装飾品の露店を控えめに振り返ったリージャに気づいて、声を掛ける。
 ああいえ、とリージャは少しはにかむようだ。
「妹がね、結婚するんですよ。お祝いの品、用意しなきゃなあって。こんなところのじゃ駄目でしょうけど」
 妹。確かリージャが月光華亭へやってくるきっかけになった子だったな、とアレックは思い出す。
「そうか……、そいつは、おめでとう」
「ありがとうございます。やっと、ってところなんですけどね、あの子も素直じゃないからいろいろあって」
 アレックの見立てではリージャはしばしば、オーグルを相手にする時のように、周囲の野放図をフォローせずにはいられないところがあるようだった。そういう相手に頻繁に遭遇してしまう星回りもさることながら、奔放な兄妹たちに囲まれて育った影響も大きいのだろう、と思う。
「父さんたちもほっとしてますよ、跡継ぎがなんとか収まってくれて」
「マーファ神官だったか、妹さん」
「そうです」
 リージャの育った家は農村の、マーファ神殿を兼ねる集会場のようなところだった。
 ラーダ神官らしからぬ俗世志向はそのせいだと、これは自他共に認めるところである。
 妹と言えば、とリージャは続ける。
「最近アリアさん、がんばってるみたいですね」
「ああ……まぁ、な」
 アレックの妹は月光華亭で仕事をしていたこともあるソーサラーである。ここしばらくは、これから二人が向かう三角塔で研究に励んでいた。
「どうもな……あいつが研究室にこもりっきり、ってのがピンと来ない」
 深くは語らず、アレックは苦笑を作る。
「……あはは、あれですよね、反動が怖いってパターン」
「……言うな、ただでさえ不安なんだから」
 アレックは思わずといった風情で額に手をやった。
 元気すぎる妹たちを持つ、考えすぎる兄たちの微妙な共感が漂った。