花よ、私と踊りましょう


side:A

「……ほんとに、お前は」 
……今一度、その言葉を呟く。
「ほんとに、お前は」
……お前は、何なのだろう。
向けるべき相手とは、今し方別れてきたばかりだ。
「馬鹿だなぁ……」
……それは、俺にこそ相応しい言葉だ。
心の何処かでは、あの世界を望んだんだ。
初めから、近い存在ではない、お前を。
いずれ兄妹ではなくなるなら、初めからそうでない方がいい、と。
それを判っていながら、全霊を以って拒絶した。
何故?……それも、判っている。
俺は、あいつを留め置きたいんだ……家族として。
もう、そんな資格は、とうの昔にないのに。
けれど……
「……ほんとに、お前は……俺の妹か?」
……そうだ。
あいつは、俺の妹だ。。
……あの日、俺がそう決めたんだ。

「アレックー!」
……剣を振るのをやめて、僕は声の方をみた。
「姉さん、どうしたの?」
息をはずませて、姉さんはいう。
「アリアが、具合があまり良くないの……だから、すぐ戻ってきなさいって」
「アリアが?……わかった」
「急いでね!」
そういうと、姉さんはかけだしていく。
それを見はからって、僕は剣を取りなおした。
「……知らないよ、あんな子」
そうだ、知るもんか、あんな子。
妹だなんて言われたって、わかるもんか。
「……髪も目も、みんな違うのに」
今日から妹だなんて言われても、ピンとくる訳ない。
「……いなくなっちゃえばいい」
そうだ、それで元通りだもの。
「……練習しよ」
あと43回。 それまでは、帰らなくてもいい。
 
帰ってくると、家はみょうに静かだった。
「ただいま……」
そっと言ったつもりが、玄関にひびく。
へんじは、ない。
しばらく家の中を歩いていると、一つのへやから、気配がした。
「ただいま……」
ドアをひらきながら、もう一度言った。
 
最初に僕がみたのは、母さんの青白い顔。
「かあ……さん? どうしたの?」
母さんはふりむくと、言った。
「おそかったのね……クレチナの伝言は?」
「……うん、まだ素振りが残ってたから」
「そう……いらっしゃい」
ちょっと安心もしたけれど、それどころじゃない。
母さんの方へかけよる。
「……アリア?」
そこにいたのは、僕の『妹』。
……よく寝ている。
「この子が、どうかしたの?」
「……起きないの」
そういえば……ここ数日、この子の泣き声をきいてない。
一昨日、母さんのいない間に忍び込んで、寝ているこの子のほっぺたをつねってやった。
それでも寝ているので、つまらなくてやめたっけ。
「起きないって……いつから?」
「ここ数日、ずっとよ」
「……なんで?」
「……病気なのよ、これは」
「……びょうき?」
「そう……最悪の場合、死にも至る、病気。」
「し……って」
「……今、父さんが友達とを呼びに行ってくれてるけれど」
「ねぇ、かあさん……」
「……アレック、手を繋いでてくれる?」
そういうと、母さんは手をだした。
僕は、そっとその手をとる。
「……えっ」
……ふるえてる。
母さんが、ふるえてる。
母さんが今いった。
『最悪の場合、死にも至る』
……死ぬ。居なくなる。消える。
何処から? ここから。
誰が? アリアが。
このちっちゃい女の子が? そう、そのちっちゃい女の子が。
ふと、こわくなった。
『この子がいなくなっちゃうのは、僕がそうしてほしいから?』
そんな考えが、うかんだ。
「……い、いやだ」
「そんなの、いやだ!」
「いなくならないで、いなくならないで!」
その子がいなくなるのが、あるいは、僕のせいでいなくなるのが。
どっちがこわいかなんて、もう分からなかった。
だた、一生懸命おねがいした。
『いなくならないで、ここに居て』
 
……なんか、つめたい。
ふと感じたのは、そんな事だった。
ほっぺたを、強くひっぱられる。
「……いひゃい」
つむっていた目を、あける。
「にーちゃー?」
金の巻き毛に、青い目。
人形みたいな子が、僕をよんでた。
「あ。あっ……」
後はもう、よく覚えてない。
覚えてるのは、泣きだした僕にびっくりして、アリアも泣いちゃった事。
その泣き声で、母さんが起きて。
ソファーで寝てた、父さんも起きて。
結局、僕らの泣き声の合唱が、家の皆を起こしちゃった事ぐらい。
 
「……あの時、決めたんだったな」
「あいつが、もし自分の道を決めたら、その日は」
「全力で、応援してやろう……って」
そう、だから……
「ほんとに、おまえは……俺の妹か?」
……違う。
お前は……『アリア』だ。
お前は、何にでもなれる、お前が望む限り。
俺にできる事は、そう大した事はないけど。
せめて、お前が笑っていられるように。
笑顔で、『行ってきます、さよなら』を言える様に。
……最後まで、誇れる兄であるように。
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"Dancing with Flower" - side:A
写真素材:clef
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