花よ、私と踊りましょう


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「…………」
また一口……あ、もう一口。
「お兄ちゃん、部屋に来るのはいいけど、ゴミ置いてかないでよね!」
「あ?……ああ。」
さっきからずっとこの調子だ。
たまに顔見せたと思ったら、黙ってグラス傾けてる。
「全く……『元気か』位言ってもいいと思うよ?」
「……元気らしいな」
「ちがーうっ!」
そういう事を聞いてるんじゃない!
「喧嘩でもした?」
十中八九ありえない事を上げてみる。
「……何でだ?」あ、苦笑した。
「だってほら、酔っぱらって愚痴こぼすのって、上司の愚痴かフラレ話でしょ?
 お兄ちゃんは上司いないし、だったらフラレ話かなって」
「……まぁ、強ち外れてもいない、か」
「ええー!?」
「……勘違いするな、お前が思ってる相手とじゃない」
あ、なんだ。
「…………」
まただんまりー……
「……なぁ」
「あ、えっ?」
「……もしも、もしもだぞ。
 ……俺とお前が、兄妹になる事がなくて、ただの知り合いとして出会っていたら、どうなったんだろうな」
「え……」
   なぜそんな事を聞くんだろう。
「えっと……そーだねー?
 なんかほら、とっぽいにーちゃんだとか、あ、でも顔はいいかなー? でも真面目一本槍で面白くないよねー」
「……無茶苦茶言うな(笑)」
「いつもの事じゃん♪」
   誤魔化せた、よね
 
お兄ちゃんは、『お兄ちゃん』だ。
これが当たり前の事だって人は、きっと幸せだ。
あたしとお兄ちゃんは、髪の色が違う。
あたしとお兄ちゃんは、眼の色が違う。
肌の色が違う。 顔の骨格が違う。
   生まれた親が、違う。
気づいた時には、お父さんとお母さんがいて。
おっきいお兄ちゃんとお姉ちゃんがいて。
そして、お兄ちゃんがいた。
何時からか、色々違うのに気付いた。
なんでなのか、どうしてなのか、一生懸命調べた。
そして分かった。
   あたしは、あの家に居る筈のない子だった。
聞いたら、素直にお母さん達は話してくれた。
拾った訳、名前の由来、……本当の『親』の、手がかり。
それを聞いた途端、頭が真っ白になった。
きっとそれまで、何かの冗談だと思ってたんだと思う。
で、それが本当だと判って、泣いた。
悲しかったし、悔しかったし、憎らしかった。
でも、一番の理由は、情けなかったから。
お兄ちゃんは、本当は。
『お兄ちゃん』になる筈がない人だった。
夜、二人の間に入ってお話したり。
わがままを言ったり、悪戯したり。
そういう事が、出来る筈だった。
それを全部、あたしが奪ってしまったんだ。

   リア」
「……」
「アリア」
「へ、ふぇっ?」
「……今度はお前の番か?」
しまった、ぼーっとしてた!
「べ、勉強してると眠くなるの、べーっだ!」
「それもどうなんだかな……(笑」
「フン、だ!」
……余程ボケーっとしてたのかな。
珍しく、声をあげて笑っている。
普段は『お兄ちゃんらしく』静かに微笑んでる。
……全部が全部、そうだ。
『お兄ちゃんらしく』真面目で。
『お兄ちゃんらしく』落ち着いてて。
どれもこれも『お兄ちゃん』らしい姿だ。
これも全部、あたしがさせた事なんだと思う。
   『お兄ちゃん』は終わりにしなきゃいけない。
お兄ちゃんには、『アレック=フォスター』があるんだから。
「ねぇ、お兄ちゃん?」
「……ん?」
「…………」
   でも。
「……どうした?」
「……ごめん、忘れちゃった?」
   もう少しだけ、このままで。
「あのな………」
「ど忘れって、よくあるよねー?」
「……ほんとに、お前は」 

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"Dancing with Flower" - side:a
写真素材:clef
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