花よ、私と踊りましょう
第一章 野分のきざし
見慣れた路地に入り視線を上げれば、すぐそこに月をあしらった看板が掲げられている。
リージャは微笑んだ。
何度この道を通い詰めたか知らない。東の大国オランの
戴く、同名の王都。つい先年までリージャはこの街に、魔術師ギルドの学生として過ごしていた。十年を数えるその暮らしの約半分は、同時に、
古代語魔法と
神聖魔法を扱う冒険者としても。
冒険者の宿『月光華亭』。
袖なしの上着の裾を、まだ
温さの残る秋の乾いた風に大きく翻らせて、リージャは目的としていたその店の前に立つ。窓辺には、赤みの強いピンクのゼラニウムの鉢。木でできたドアはリージャが最初にそれを見た時よりも、風雨の跡を刻んで、たしかに古ぼけていた。ドアノブの金具も、日夜押し寄せる客の手を受けてすり減っている。しかしまだこの板材たちが役目を終える時は来そうにもない。まだそれほどの時しか、過ぎてはいない。
外開きのドアを引くと、その向こうには、初めて訪れる人が必ずと言っていいほど目を
瞠る、存外に明るい空間が広がっている。奥に大きく取られた窓と、その向こうに広がる中庭のためだろう。
中庭に出るためのドアは今は大きく開け放たれて、差し込む光を半ば遮るように立った長身の男が、赤みがかった茶色の髪を揺らしながら、布で首筋の汗を拭っていた。襟を大きくくつろげて着こなす寸法の大きいシャツの裾からは飾りベルトが覗き、厚手の生地のズボンの裾は冒険者らしい堅く丈夫そうなブーツに収まっている。そしてトレードマークのミニグラスの向こうからこちらを確かめた空色の両目は、間を置かずに楽しげに細められた。
「よう、リージャ」
「ルシェさん」
おどけて両手を挙げる彼は、リージャがよく知る
戦士の一人だ。
「手合わせですか?」
月光華亭は比較的若い冒険者が集まることで知られ、かといって己の力を過信した身の程知らずがそう多いわけでもないのだが、力を持て余した若い者がたむろっていれば、暇つぶしや力試し、時には鍛錬のために競い合うこともある。広い中庭は、そのためのものでもあった。
「やぁ、ちょいとアレックが暇で暇で死にそうだって言うもんだから、さ」
ルシェは首筋を拭っていたタオルを、歌劇で総レースのハンカチがされるように振り回し、自身もくるくるとステップを踏んでカウンターの止まり木に収まる。彼が
退けば、中庭に続く扉からはもう一人、黒い長髪を
括って背に流した、線の細い男が姿を見せたところだった。
「まあ、暇を持て余していたのには違いないが、な」
アレックは苦笑する。
こちらは長袖を身につけてはいるが、まだ暑気がぶり返す時期だからか、いくらか薄く柔らかそうな風合いのものである。余裕を持たせた身頃を
留める細いベルト以外は、ごてごてとしたものは身につけていない。今は鞘に収めた剣と、外したばかりであろう鎧を手にしている以外は、リージャの至って見慣れた姿だ。そして、その二つに至るまでことごとく黒い。
「
暫くぶりだな、こっちに来てるって事は……フリミッツの方は余裕ができたのか」
アレックが挙げたのはリージャの、
魔術師としての赴任地でもあり、現在籍を置く
知識神の神殿の所在地でもある街の名だ。
「相変わらずですよ、まあ僕がやってるのは雑用ですから、息抜きがてら
都に顔を出してこいってことで。
ノレクさんから、皆さんによろしく、って」
「そうか」
友人の名に、アレックは微笑む。その後ろではルシェが両手を、何かを掴むような形に蠢かせていた。
「……なんですか」
「いや、ほれ、お土産とかないのん、パパー」
誰が誰のパパなんだか、と苦笑してリージャは引っかけていた薄い背負い袋の中から包みを引っ張り出した。
「おまんじゅうでいいですか?」
「わあいありがとう、パパ大好き〜♪」
ルシェはさっと立ち上がり、リージャの手から包みを奪うと、そのままそそくさと元の止まり木に戻って包みを解き始めた。
「ちゃんと皆さんで分けてくださいよ」
返事はなく、ただひらひらと手が振られる。それを眺めてリージャは、カウンターの奥で仕込みをしていたマスターに声を掛けた。
二言三言挨拶を交わし、水の入ったピッチャーを受け取って、既にアレックが着いている卓の椅子の一つに腰を落ちつける。
「こっちも、変わりなく?」
「ああ、
見ての通りだ」
広めの店内にはルシェとアレックの他に、離れたところで読書や昼寝をする冒険者が二、三人見受けられる。確かどちらも前に会った時は、駆け出しであった。昼下がりだから、こんなものか。
これまた何度もお世話になったボードには、依頼の記された羊皮紙が何枚か見て取れた。
ここに残っているものだけではわからないけれど、アレックの口ぶりと合わせて考えれば、冒険者が足りなくてあっぷあっぷしているわけでもなければ、閑古鳥が鳴いているわけでもなさそうだ、とリージャは推しはかる。
と、その耳を、穏やかな秋の昼下がりには似つかわしくない金属音が叩いた。
いや、このような冒険者の宿だからこそ、似つかわしいのか。
「……あれも、相変わらずってことですか」
見るからにげんなりしたリージャの様子に、アレックは面白そうに口許をゆるめた。
ルシェは両手に饅頭を一個ずつ持って、交互にかぶりついている。
連続した金属音は次第に音量を高めると、やがて、ついさっきリージャがくぐったドアが勢いよく開かれる音とぶつかった。
「ここだ、ここ!」
衝撃で床とカウンターが小さく文句を言うように揺れる。
「うわぁ……」
ルシェはあからさまに食傷した顔を作ると、両手に持っていた分を口に押し込み、まだたくさん入っている饅頭の包みごとカウンターの一番奥に避難して行った。
マスターも仕込みの手を止めて、顔を上げ、苦笑いだ。
「うちの建て付けはお前さんほど頑丈じゃないもんでな。
勘弁してくれよ」
「悪い悪い。
それにしても、むさ苦しい顔ぶれだなあ!」
扉を手荒く開け放った白銀の輝き、否、それを
纏う人影は大仰に手を振った。……リージャは全身鎧人間の放つあまりの挨拶に、一呼吸の後にはお返しを見舞っていた。
「暑苦しい奴に言われたくないよ!」
「何を言うか。そりゃまあ確かに見た目こそお前さんらのそれと違って重厚かつ頑丈なものだけどさ。これでいて古代の秘術がふんだんに使われた……それこそ、心頭滅却すれば火もまた涼し、あるいは愛があれば温度差なんて気にしない、というほどの一品だぜ。まして日増しに寒くなりつつあるこの頃
」
「結局暑苦しいんじゃないか」
「だから、俺は愛があるから大丈夫なんだよ。この完成された造形美だ、お前さんだってそれがわからんわけじゃあるまい」
わかるわけあるか、
返そうと息を吸ったリージャの横でアレックがくっと小さく吹き出した。
タイミングを挫かれてリージャはついそっちを見やる。
「いや、すまん、笑う事じゃなかったな……くくっ」
あらぬ方に顔を向けてアレックは、片手だけ降参したように掲げる。その肩が小刻みに震えていた。
「……別にいいですよ笑っても。言いたいことはわかってます」
「ああ……、久々に会って、これなのか、お前ら。……いや、いいことなんだろうが」
「まったくです」
敢えて
他人事のようにリージャは溜息をつく。いいことなのは、否定しない。
鎧男
オーグルはと見れば、いつの間にか現れている見慣れない小柄の男に話し掛けられていた。
「あの〜、ここが月光華亭さんですか、私はどうしたら」
「ああ、すまんすまん。あそこにいる親父さんに、その、なんとかって領主からの手紙を渡してくれ」
用と見てマスターが手を拭きながらカウンターから出てくる。リージャは隣の椅子をオーグルに引いてやった。
「依頼?」
「そのようだな。ここの神殿によそから来た商売がてらの巡礼なんだが、冒険者の宿への手紙を言付かっていると聞いたんで、案内して来た」
これでいて、
というのはまさにこの男のためにあるような言葉だ
オーグルは大陸有数の実力を持つ
商業神の
神官なのである。
「……神殿、開けてきて大丈夫だったのか」
「平気平気、今日は寝坊もしなかったし、もとよりここは地元でもないからな」
軽く請け合うとオーグルは外した兜を卓に置いて、リージャが注いでやった水を喉に流し込む。今更ながら、こいつがいなくなった神殿よりも、ここに来るまでに鎧人間に遭遇した一般人のことをリージャは案じた。……まあ、界隈の住人にはもはやただの、月光華亭の輝くアレ、として認識されているのだろうが。
巡礼者は懐から出した書簡をマスターに渡し、マスターとしばらく話すと、オーグルに挨拶をして出て行った。鷹揚に手を振って見送るオーグルの向こうで、早速開いた書面に眼を落とすマスターは、
渋面を作った。
「うん、どうしたマスター?」
もくもくと饅頭を消費していたルシェが、今度はお茶が怖いとばかりに傍らのポットに手を伸ばすついでに、マスターに水を向ける。
「……ちょっとな、難しい仕事になるかもしれないぞ、これは」
漏らされた言葉に、卓の三人も視線を交わす。アレックが口を開いた。
「ん、俺達が聞いて大丈夫そうなのか?」
「秘密厳守、とは書いとらんからな。ここにある内容を喋っただけじゃ、醜聞にもならんだろう。
それにどのみち、お前さんたちに話を回すことになるだろうしな」
ここに揃っているのは、大陸有数かそれに迫る、冒険者の多いオランでも名が知れた神官、または戦士、あるいはその両方である。
その面々を選んでの、という依頼にリージャはマスターの声を拾う耳を緊張させた。
「領主に、醜聞、ね……察するに、近辺のお偉いさんか」
アレックは、先ほどの巡礼者とオーグルとのやりとりをなぞる。
「ああ、依頼を寄越したのは、コルネール男爵って貴族だ。
領地こそ狭いが、代々続く、知る人ぞ知る名家ってやつだな」
「コルネール……、どこかで聞いたことありますね」
記憶を探るリージャに、マスターはうなずいた。
「お前さんならあるだろう、なんでも、賢者や魔術師を輩出する家柄だって言うからなあ」
「そりゃ、いかにも賢者の国らしい話だな。王の覚えもめでたいんじゃないか?」
オーグルの感想も、あっさりと肯定される。
「ああ。領地は狭いと言ったがな、確か近隣の王家の直轄領を代官として任されているはずだ。
で、その領地……まあ、私領のことだろうが」
マスターの話の合間を縫うように、ルシェがさりげなく卓にやってきて饅頭の包みを置いていく。まだ三分の二ほどは残っていた。
「領内で遺跡が見つかって、調査に向かった冒険者のうち、一人が失踪した、とあるな。なんでも、
魔神がいたらしい」
「それで、俺達が借り出されるってわけか」
饅頭に手を伸ばしながらオーグルが応じる。
「消えたのは、
水上歩行が使えるレベルの
精霊使いだそうだ。依頼は、その遺跡の再調査。消えた原因も不明とあるから、もちろんそれも解明しなくてはならんだろうな」
水上歩行が使える精霊使いとなれば、冒険者としては中堅どころである。
「デーモンちゃんかぁ……俺もうデーモンはお腹いっぱい、
と言わせては貰えないんだろうねぇ」
湯気の上る湯飲みを片手にルシェが嘆くと、アレックも続ける。
「一口に魔神と言っても千差万別だからな……。脅威の実態がわからん現状では、
如何ともコメントし難いな」
「どんな遺跡か、っていうのは書いてないんです?」
尋ねるリージャに、マスターは書簡の一部を示した。
「下位古代語は読めるよな、お前さんら。これが遺跡で手に入った書き付けの写し、だそうだ」
父とフラックスのために。
L.Bipartita
「えーと……、古代王国人の残したもの、かな。住人か、研究者かはわからないけど……」
横から覗き込んだアレックがうなずく。
「それは現地に行ってみるしかないだろうな、向こうなら情報もあるだろう」
「そうですね」
「おいおい、まだ報酬も聞いてないうちから何言ってるんだ。俺はデーモン相手にただ働きするほどお人好しじゃないからな」
割って入ったオーグルに、ルシェは
呵々と笑った。
「何、俺は問題ないよ、その辺は。マスターがしっかりしてくれてるんだろう?」
マスターはその言葉に苦笑いをする。
「信頼してくれて、何よりだ。まずは報酬の額から行こうか。
千ガメルだ。もちろん、一人あたりな」
☆
「
それじゃ、僕は学院の方に外出届けを出してきます」
諸条件を確認し、そう言ってリージャが立ち上がると、アレックが軽く片手を上げて続いた。
「なら、俺も一緒に行くか……現地について、多少は調べておきたいしな」
魔神がいるのであれば、現場へ向かうのは早いほうがいい。しかし同時に、下調べのできるのも、ここ王都だけだ。
「そうですね、あんまり期待はできないですけど、人が消える遺跡なんてあたりも当たってみてもいいかもしれません」
月光華亭を出てしばらく歩くと、ハザード川を越えてオランの東西を結ぶ大通りへ出る。
色彩豊かな西部諸国や手に入らぬものはないと言われるロマール、そして街全体がどこか若々しいファンなどとは立ちのぼる空気こそ違えど、大陸のそこかしこからものの集まるオランの活気はまた格別だ。
呼び込みの華をかわしながら、露店と建物の向こうにそびえ立つ黒大理石の三連の塔を目指して二人は歩いていく。
「っと、どうした?」
アレックは、装飾品の露店を控えめに振り返ったリージャに気づいて、声を掛ける。
ああいえ、とリージャは少しはにかむようだ。
「妹がね、結婚するんですよ。お祝いの品、用意しなきゃなあって。こんなところのじゃ駄目でしょうけど」
妹。確かリージャが月光華亭へやってくるきっかけになった子だったな、とアレックは思い出す。
「そうか……、そいつは、おめでとう」
「ありがとうございます。やっと、ってところなんですけどね、あの子も素直じゃないからいろいろあって」
アレックの見立てではリージャはしばしば、オーグルを相手にする時のように、周囲の
野放図をフォローせずにはいられないところがあるようだった。そういう相手に頻繁に遭遇してしまう星回りもさることながら、奔放な兄妹たちに囲まれて育った影響も大きいのだろう、と思う。
「父さんたちもほっとしてますよ、跡継ぎがなんとか収まってくれて」
「
大地母神の神官だったか、妹さん」
「そうです」
リージャの育った家は農村の、大地母神を祀る場を兼ねる集会場のようなところだった。
知識神の使徒らしからぬ俗世志向はそのせいだと、これは自他共に認めるところである。
妹と言えば、とリージャは続ける。
「最近アリアさん、がんばってるみたいですね」
「ああ……まぁ、な」
アレックの妹は月光華亭で仕事をしていたこともある魔術師である。ここしばらくは、これから二人が向かう三角塔で研究に励んでいた。
「どうもな……あいつが研究室にこもりっきり、ってのがピンと来ない」
深くは語らず、アレックは苦笑を作る。
「……あはは、あれですよね、反動が怖いってパターン」
「……言うな、ただでさえ不安なんだから」
アレックは思わずといった風情で額に手をやった。
元気すぎる妹たちを持つ、考えすぎる兄たちの微妙な共感が漂った。
☆
魔術師ギルドの門をくぐった二人は、程なく二人連れの女性魔術師と行き会った。
「あれ。リージャ、月光行ったんじゃなかったの?」
長い髪を下ろした方が軽く手を振り、声を掛ける。こちらはネリア。リージャには師匠を同じくする姉弟子に当たる。
「そうなんですけどね、そしたら見計らったみたいに依頼が舞い込んできて。調べ物をちょっと、あと、外出届も出さないといけないですし」
「依頼? あーそんでアレックまで一緒にいるんだ。
どんなよ」
「コルネール男爵って依頼人なんですけどね」
栗色の髪を凝った形に結い上げたもう一人の魔術師、ルメリアがああ、とうなずく。
「魔術師ギルドに出資してる貴族の一人だったかしら」
「たぶん。
領地で見つかった遺跡に魔神がいて、消えた人がいるらしいんですよ」
かいつまんで事情を説明すると、ルメリアが琥珀色の瞳をわずかに
眇め、魔神、と反芻した。
「それ、私も行ってもいいかしら」
熱心だねぇ、と笑うネリアに向かって、ルメリアは肩をすくめて見せた。
「まあ、ここにいても仕事もないしね」
商家の娘で、代々学問に縁が深かったわけでもない彼女は、リージャとはまた違った意味で世知に敏感であり、ある時期まではこの閉鎖された組織の中で、明確に上を目指していた。
組織に有力な縁戚がいるでもなければ、大きな派閥のバックアップを受けられるでもない妙齢の女性が上を目指すために取れる道と言ったら自然といくつかに絞られる。しかしルメリアは、その手段のために自らの両手を開けておくことは選ばなかった。
リージャはその左手の薬指に光る指輪を、羨ましさと微笑ましさが少しずつ混じった視線でちらりと追い、頷いて言った。
「助かりますよ。高位のソーサラー、いないもんで」
「反面、戦士と神官は大安売りもいいとこだ」
そう続けたアレックに、皆が笑った。
☆
「あっれーるめにゃん。クルトはー、ねぇクルトはー?」
連れを一人増やして宿に戻ったリージャたちを、支度を終えたらしきルシェが首を左右に傾げながら出迎える。
「ああ、彼は別に仕事があるみたいで」
と、動じたふうもなくルメリアは
盗賊を表す指真似をした。彼女の指輪の贈り主、クルトは、これまた実力のある盗賊であり、精霊使いである。
「第一声がそれなんですか、出迎えの」
「で、こっちはこっちで即答か……」
留守の間に、マスターがまとめておいてくれた食糧を受け取りながらリージャとアレックは中途半端な笑みを浮かべ、それぞれ少しずつ脱力した。
「っていうかルメリアさんが同行してくれるとか、まだ言ってないですよね」
「えー、だってほれ、当然、むしろ自然だろ? クルトがいたらるめにゃん。るめにゃんがいたら……、ってのはこう、な?」
ルシェは両手で空間を作り、右や左にスライドさせて説明し、一人でうんうんと悦に入っている。
そこへ階上から金属音が降りてくる。振り仰いだリージャとルメリアの視線の先で、オーグルが荷物を携え兜を装着し直した姿で現れた。
「よし、それじゃこのメンバーで出発だな。……見たところどうも小器用なやつがいないのが気になるが
まあ、オラン救国の英雄だって『罠ははまって踏み潰すもの』と言ってるし、心配ないか。なんせ俺、はまるのも踏み潰すのも得意だからな」
「はまって踏み潰した後はちゃんと自分で出てくることね。何しろ重くて持ち上がらないんだから」
わざわざ
念動なんて使わないわよ、と斬り捨てるのはルメリアだ。リージャは無意味に豪華で不毛なやりとりだなぁこれ、と感じながら口を添える。
「そんなこと言うと、またとんでもない方法で脱出芸とか試みかねませんよ」
……爆発の反動で、とかそういう。
「さ、行くかー。おやつは3ガメルまでだぜーぃ」
ルシェが準備体操のように腕を回しながら、仕切り直した。が、いまいち締まらないのはどっちもどっちである。
「……バナナはおやつに含まない、か」
アレックの溜息が、温度を下げ始めた通り風に乗った。